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第九話




次の日、学校から帰ると玄関に母の靴があったので、
今日は出かけたのかと聞くと、

「そうなの、ママね、耀司がいない間すっごく寂しいから、」

そこまで言うと、そばに会った鳥かごの布を取って見せた。

「鳥さんを飼うことにしたのよ、ほら。」

と、嬉しそうに言った。
可愛らしい文鳥だった。

「名前はもう付けた?」

耀司は自分で付けるつもりで母に尋ねた。
しかし残念ながら母はもうすでに考えていたようだった。

「ええ、ヒロフミよ。」

耀司はその時、子どもながらに嫌な予感を覚えたのだそうだ。

「今度はちゃんと愛してくれるかしら。」

愛しくて堪らない、というような表情で
鳥かごを撫でた。

―ヒロフミは、父の名前。

次の日、学校から帰ると母が泣き崩れていた。
耀司はすぐさま母のそばへ駆けつけた。

そこには昨日飼ったばかりの文鳥の無残な死骸があった。

羽根はちぎられ、足は折られていた。
耀司は思わず目を逸らした。
吐いてしまいたかった。

「耀司、ちがうのよ、ちがうの、ヒロフミが悪いのよ。」

血まみれの手で頬を撫でられた。
生き物の臭いがした。

「逃げようとしたから、逃げられようにしたら、動かなくなっちゃって。」

「耀司、どうしよう、愛してくれないの、だからいけないの。」

「ヒロフミが悪いのよ。」

耀司は泣くことすら出来なかった。
母が壊れてゆくのを、ただ見ることしかできなかった。



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